やぐら


俯き加減に歩くのがしんどくなってきた。
なんと云うか、しんどさに慣れてきたのがしんどい。

ほうら、今度はすこしぐらついた。
ぐらついている事を愉しんでいると、
高く高く聳える櫓が視界の片隅に侵入してきた。

ぐらついている事に飽いた事もあり、新たな愉しみを見失うまいと、
ぐらつきふらつき俯き乍ら、櫓迄近づいて様子を伺う事にした。

茄子田座のからくり人形が、似非新劇の流れの傍流に呑まれて誕生した
”覗かれ部屋”を改良した”素体踊り専門の劇団”の巡業が行われているらしい。

半年ばかり、この公演を観る為に通い詰めていると云う
家族連れらしき年齢不詳の男性によれば、毎回持参した金銭を
丁度一銭上回る観劇料の値上げが為され、一度も入場出来ておらず、
どのような公演が行われているのか皆目見当がつかないのだそうだ。

興行主を詰問した所、興行協力者としてなら入場可能との事。
どうすればいいかと問えば、山車からくりの脚として、
子供を差し出すよう求められたのだそうだ。

脚とは子供の人足の事か。
  いやいやお子さんが欲しいんです。
それは無理だが一日位なら。
  いやいや一生ですよ。
それは無理だが脚の一本位で満足頂けないものか。
  いやいや最低でも二本ですな。
それは無理だが腕ならどうだろうか。
  いやいや腕だけ頂いても山車の脚にはなりませんから。
それは無理だが.......それも無理だが、それや あれや 喧々囂々。

そも、”山車からくりの脚”とは何ぞや。
  ”山車からくりの脚”ですよ。
  傀儡はぜんまいと糸で動いておりますが、
  山車からくりの脚は人様でないといけませんから。
ならば私では駄目なのか。
  大人は直ぐ壊れてしまいますからねぇ。いけませんねぇ。

かくも無為な時間と、禅問答の様相。
これは駄目だと、さすがに諦めてしまったらしい。

仕様が無いので、連日、前日よりも多くの金銭を持寄り、
観劇料の上昇に打ち克つ日を夢見ているのだそうだ。

結局のところ、どのような興行が行われているのか。
盲目的にこの場所に人が集まっているだけではないのか。
人が先で、後から櫓が建てられたのかもしれない。

いたたまれなくなり、その場を急く、立ち去る事にした。

コメント

  1. 山車からくりの脚・・って怖いっすね

    しかしその興行主ときたらたいしたもんだ

    何もない(であろう)小屋に

    人を集めちまうってんだからさぁ

    人が集まりゃ、モノが売れる

    腹が減ったら食い物が売れる

    遠方からお越しなら宿や土産なんかも必要だ

    そいつに興行主が一枚噛んでりゃぼろ儲け

    って寸法よ

    いやぁ たいしたもんだ、たいしたもんだ

    なーんて

    返信削除
  2. あるくってなんなんだろうなあ。
    昔の河原者とかを主役になにか
    話が作れないかなあ、
    などど思っている私の
    スケッチみたいなもんです。

    返信削除

コメントを投稿