トリアシ





三歩進むと、
其れ迄辿って来た道も方向も理由や来歴も、
全て忘れてしまえると云う足を手に入れた。

部屋を出た。表通りの方向に体を向けてまっすぐ進んだ。
隣の部屋の表札が目についた。
自分がこの建物の何処に住んでいたか分からなくなった。
隣の部屋の表札を意識し乍らまっすぐ進んだ。
自分がどの建物の住人だったか忘れてしまった。

いつの間にか、真っ白に滲んだ道をまっすぐ進んでいた。

枷が外れたような高揚感に満ちた太平楽な世界。
三歩進むと何かを忘れるような不思議な気分になるが、
理由はとうに忘れてしまった。

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