木曜は可燃ゴミの収集日

本日は木曜、と云う事は週2回の可燃ゴミの回収日。


最近、ここ1、2年位だろうか、アパート一階郵便受けの正面、
上階との連絡用の自分は殆ど使用する事のない
階段のさらし踏板の下にぽっかりと存在する空間、
ここが指定された近隣住民のゴミ収集場所であるのですが、
この場所に規定時間からさほど遅れる事無く
回収業者が到着するようになってしまいました。


この規定時間と云うのが、朝8時。


私と云う一個人の1日の、いや、
ある一定期間に於ける概観さえ、
このような公共の場で垂れ流す訳には
参りませんので詳細は控えさせて頂きますが、
つまるところ、私はこの時間帯、
大概の状況に於きまして「寝ている」のです。


自宅に居ない可能性もございます。
前日出掛けたまま帰宅しておらず、
都内のファミレスやハンバーガー屋や、
開店と同時に駆け込んだ喫茶店の席で爆睡しているか、
あるいは何処ぞの事務所やら友人の部屋の床に
転がっている可能性が高いのであります。


まかり間違っても異性同性の色香に迷い
眩惑され勾引される、などと云ったような
物語れるような展開はございません。
もしそのような経験をする機会がございましたら、
それはもう嬉々として私小説風の
幻想同人小説でも上梓致しましょう。


早朝8時迄にゴミを出さなければいけないなんて、
どうすれば良いのでありましょうか。


昔日の、とは申しましてもそれほどの昔ではございませんが、
午後になってもゴミが回収されず辺り一面神聖なる烏様に
まき散らされた生ゴミの芳香が漂うあの夏の気怠い午後。


お昼近くにのっそりとゴミを出しても
回収業者の軌跡を伺う事も出来なかったあの夏の日々。
永遠とも思えるあの夏の、、いや別に冬でも構いません。
冬の方が匂い立つ描写を記憶に留める経験を
脳に課す必要が生じずに済むのでありましょうから、
その方が宜しいかもしれませぬ。


寒さ(暑さ)のあまり目を覚ましたとしても、
二度寝を為したる結果降ってくる、夢の軌跡を
夢日記に書き起こすと云う私にとって大切な
日々の課業を足蹴にしてまで起床する価値があるとは
思えないのであります。


ゴミを出してから二度寝をするよう
提案された事もございますが、
一度豊穣な外気に触れてしまったが最後、
実際の体験によって浸食されたる夢は、
飛躍跳躍飛び跳ね廻る、ころころとした
魅力溢れるものでは無くなってしまいます。


ではどうするか。
前日深夜に指定箇所へ誰にも見咎められる事なく
ゴミ袋を置いてくる事で解決でありましょうか。


猫の舌にヤスリ掛けしたような
「しゅっきゅっ」とした手触りの
「都指定炭酸カルシウム配合半透明ゴミ袋」。
45ℓから30ℓ規格のビニールの袋の結び目に
人差し指を引っ掛けて、部屋の扉の軋みが
響き渡らないように自重を慎重に慎重に、、。
そして、裸足または靴下をはいた状態で、
そうですね、靴下は指先が割れた
足袋のような形状のものが望ましいでしょうか。


ゆっくり扉を解放いたしましたら、
うつらうつらと廊下を点描する
蛍光灯の下、直線距離にして
10メートル程の廊下を
密やかに渡り抜けなければいけません。


前屈姿勢、軸足の先に意識を集中して一歩一歩、
蛍光灯のかぼそい唸りの連なりから外れた
宵闇の中心とも思える、漆黒のゴミ収集地点に
向ってゆかなければいけません。


この漆黒の中心に至るには、
どれほどの時間を必要とするのか。
考えるだに馬鹿馬鹿しくなってきますし、
このような姿を見られてしまったら、
どのような弁明をすれば良いのか全く分かりません。


結果として苦労して漆黒点に辿り着いたとしても、
翌朝に自分の生活の痕跡が
アスファルトの上にまき散らされる可能性を考える余り、
汚濁にまみれた悪夢にうなされてしまうかもしれません。


心に咎を感じる事もなく堂々とゴミが
詰まった袋を放る事ができる、そんな
心根のありようを持ち得たとしても、
やはりどうにも治まりが悪いのであります。

ー 脱線

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